PROJECTS

  • 薪水書窓庵 /稽古場/劇場/新築

    - 沼須人形稽古場 -

  • 薪水書窓庵 /稽古場/劇場/新築

    - 沼須人形稽古場 -

    機能的な余白をつくることで、さまざまな活動を受け止めると同時に新しい活動が創造されるような建築がつくれないかと考えた。

    この計画は、群馬県沼田市沼須町に安政年間の時代から脈々と地域の人々によって伝えられて来た伝統文楽「沼須人形芝居あけぼの座」のための稽古場兼劇場である。私たちは適度にコントロールされた余白としての「土間空間」を稽古場としての必要空間に隣接させて計画した。その屋根のみ架かった空間は、普段は座員の「休憩所」、芝居道具の手入れをする「作業場」として使われ、イベント公演時には椅子を並べ「客席」になる。朝夕は地域住民の散歩途中に休憩できる「東屋」としても利用される。

背景と計画
群馬県沼田市沼須町に安政年間(1854~60年)の時代から地域の農民達によって伝えられてきた伝統文楽「沼須人形 あけぼの座」の稽古場である。以前は、芝居の稽古は周辺の農家や公民館を借りて行われていた。その都度、稽古場所を探す必要性とともに舞台の設置・解体も毎回行うため、高齢座員への負担が大きく、また人形や舞台道具の保存環境も悪かった。それらの問題から9代目座長(金井竹徳)が陣頭指揮を取り、多くの支援者たちの支援を受けこの計画は始まった。
人形の頭は古くから受け継いできたものを手入れをしながら大切に扱っている。
人形の動かし方は代々座員から座員へ直接伝えられる。心の入った動きを人形にさせることはとても難しい。
計画のスタートは、沼田市中心部に築80年の沼田城下町の面影を残した商家が取り壊されることが決まったところから始まる。 その話を聞いた座長がその建物を新しい敷地に持って行き稽古場として再生させたいと考えた。しかし譲り受けた建物は移築できるほど状態は良くなく、さらに構造体として使える古材も限られていた。
敷地に古材が山積みなったところから我々がかかわることになる。まず初めにその大量の古材を一つ一つサイズと状態を調べ、釘抜きや清掃も行った。
土間と回廊
この建物には稽古場とほぼ同面積の「土間」を計画している。元来、日本の民家における伝統的な土間空間は、様々に用途が変化する多機能性と、接する内部空間の向上性を持っていた。この建築の土間も、公演時には客席になり、稽古時には座員の休憩や食事の場、また芝居道具などの手入れや製作の作業場として、さらに地域住民が散歩の途中に休憩できる東屋など柔軟に用途を変える空間である。また内部の稽古場と土間を一体的な連続空間とすることで相乗的に空間の豊かさと利用形態の幅を広げている。
深い軒の出
人形芝居の上演の様子。
土間空間は客席として利用される。構造でもある漆喰の壁は適度に道路との視線を遮り、囲まれた空間を作り出す。
土間空間で行われる座員みんなでの食事の様子。半屋外空間のため、火を使ったバーベキューも楽しめる。
土間上部に「回廊」を廻すことで、裏の竹林や遠くの山々、地域の風景を楽しめる場とした。その回廊は、大きな木造無柱空間の水平剛性をとるためにも機能している。
室内にも「回廊」は回り、そこにはたくさんの貴重な書籍や資料を展示品として公開するとともに収納している。また内向きには舞台を立体的に観賞できる客席としての機能も併せ持つ。
2階の個室は、普段は書斎として使われるが、イベント時は着替えなどができる楽屋として使われる。
土間と広間の間は建具によって閉じられる。稽古場として使うときは、この建具の内側に貼られた鏡によって自分たちの姿を見ながら練習する。
道路からの外観。大きな竹林の山を背後に背負う。建築の約半分は壁のないオープンな土間空間で風も雨も抜けていく。
伝統と伝承 地域の伝統と文化にとって極めて公益性があり公共性の高い建物が、ある個人の集まりから着想され完成したことは、現代における公共施設のつくられ方とは異なり、大きな意義があると思う。またこの建築は、背景、経緯や手法に過去から受け継いできた思想が流れているとともに、地域の未来へ伝承する新たな芽になるだろう。
断面図
沼須人形稽古場の構造
沼須人形稽古場は4寸幅の製材による和小屋の木造在来軸組工法である。 2階床,小屋面の大きな吹抜けと、土間部分の隅柱の無い開口部による、上下・水平方向に抜ける開放的な空間を、いかに実現するかが構造計画の重点であった。 そこで吹抜けを囲むようにロの字に回廊を配し、その床及び天井部分に厚板構造用合板を貼ることにより小屋面・床面の水平面剛性を確保した上で、バランスよく壁を配置した。 隅柱の無い片持ち部分は腰壁を利用し、逆梁として大断面集成材を配置している。その桁梁からさらに垂木により持ち出され深い軒となり、軽快かつ重厚な瓦屋根を形成している。 壁量バランスを考慮して最低限配置した土間部分2層に連なる壁柱が、上下・水平方向に視線が抜ける印象を際立たせている。桑子亮 / 桑子建築設計事務所
用途 人形芝居稽古場兼劇場
所在地 群馬県沼田市
主体構造 木造
敷地面積 558.94㎡
建築面積 99.37㎡
延床面積 134.15㎡
設計期間 2009.07 - 2011.11
施工期間 2011.11 - 2012.06
構造設計 桑子建築設計事務所
構造助言 増田 一眞
施工会社 サンポウ住宅事業部
大工 山田 春雄
写真 SangoDesign
  • YEAR
  •  / 

OTHER PROJECTS

  • YEAR
  •  / 

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2012

2011

2010

  • YEAR
  •  /